原生林の再生
ハワイでのSiglo Tonewoods設立の経緯と、固有の森林を再生することで、未来に向けてコアの森を育んでいくBob Taylorのビジョンについて語ります。
ハワイアン・コアの豊かな歴史と文化
ハワイアン・コア(学名:Acacia koa)は、古くからハワイの文化において大切にされてきた天然資源です。ハワイ語で「戦士」や「勇気」を意味するコアは、ハワイにのみ自生する樹木で、数千年にわたり、伝統的な器、カヌーやパドルなど、文化的に重要な道具の製作に使用されてきました。近年では、高級家具や美術工芸品、楽器などにも幅広く活用されています。
コアはウクレレやギターの愛好家から特に人気があり、特にハワイでは不動の地位を誇るトーンウッドです。
深みのある色彩、美しい木目、時には光沢を帯びた見事な杢目など、コアならではの魅力的な外観に加え、独特のサウンドキャラクターによって、数十年にわたりTaylorを代表するトーンウッドのひとつとして愛され続けています。
ハワイの原生林が直面する脅威
過去200年にわたり、ハワイ固有の森林はさまざまな要因によって徐々に減少してきました。主な原因は、サトウキビやパイナップルの大規模栽培に伴う農地への転換、牛の放牧地の拡大、そしてヒツジ、シカ、ヤギなどの野生化した外来動物の持ち込みです。島特有の生態系を持つハワイは、外来種の影響を特に受けやすい環境にあります。当時、こうした開発や動物の導入は食料生産や経済発展のために必要とされていましたが、その代償として原生林が失われていきました。
ガラパゴス諸島やマダガスカルなどの孤立した島の生態系と同様に、ハワイの多くの森林も、外来植物の繁殖・野生化した動物による食害・森林火災などによって、ゆっくりと衰退しています。フェンスなどの設備がなければ、自然に発芽した若木は放牧動物に踏み荒らされたり、食べられたりしてしまいます。特にコアの若木は、ヒツジや牛に好んで食べられるため、大きな影響を受けています。
一方で、明るい兆しも見え始めています。現在、ハワイの原生林を再生するため、フェンスの設置、植樹、外来植物の管理、防火帯の整備など、本格的な森林管理の取り組みがますます広がっています。
原生林が破壊され、衰退するまでには100年以上の歳月がかかりました。しかし、今、その流れは変わりつつあり、森林が回復し始める姿を目にできるようになってきました。もちろん、完全な再生にはもっと長い時間が必要です。
共同事業 Siglo Tonewoods
こうした原生林再生の取り組みを支援したいという想いから、Taylorは2015年、信頼する木材調達パートナーであるPacific Rim Tonewoodsと共同でSiglo Tonewoodsを設立しました。
Pacific Rim Tonewoodsは、楽器業界向けのトーンウッドを専門に扱うサプライヤー兼製材所です。Taylorにスプルース、メイプル、シダーを供給するほか、私たちが調達するコアの製材・乾燥も手がけています。
同社の創業者Steve McMinnは、Bob Taylorと同様に先見性を持ち、森林の適切な管理と保全の重要性を深く理解しています。彼のチームは、ギター製作者が求める特性を備えたコア、スプルース、メイプルの遺伝的特性や繁殖方法について理解を深めるため、数々の研究プロジェクトを先導してきました。
Siglo Tonewoodsのミッションは、コアの選択的な伐採と、植樹を含む森林再生プロジェクトを組み合わせ、さまざまな関係者と協力しながら、長い未来にわたってコアの森を健全に維持していくことです。
プロジェクトによる計画的な伐採と再生
Sigloがハワイで最初に取り組んだプロジェクトでは、米国森林局が過去に導入した「伐採した木材の分の価値を現地に戻す」仕組みを採用しています。
具体的には、土地所有者にコアの原木代金や伐採権料を直接支払うのではなく、Sigloは指定されたコアの木を一定数伐採する許可を得ます。その対価として、伐採した木材と同等の価値を持つ森林再生プロジェクトの費用を、原則として前払いで負担する仕組みです。
このプロジェクトでは、野生化したヒツジや牛の侵入を防ぐフェンスの新設、コアの苗木の植樹と育成管理、外来植物の除去、防火帯の設置と維持管理などの資金となっています。
この仕組みを通じて、Sigloは既にハワイ原生林1,400エーカー(約567ヘクタール)ほどの再生に成功しています。
この動画では、Steve McMinnをはじめとするパートナーたちが、Siglo Tonewoodsのミッションと、ハワイで進めているコアの再生への取り組みについてを語ります。
Siglo Kapoaulaプロジェクト
特に注目すべきプロジェクトの1つは、2018年、Bob Taylorがハワイ島北部に広がる565エーカー(約229ヘクタール)のなだらかな牧草地を恒久的な保全を目的として購入したことにはじまります。
ハワイでKapoaulaと呼ばれるこの土地は、今後もSiglo Tonewoodsによって管理されます。約150年前、この地域は良質なコアの産地として知られ、人が容易に立ち入れないほど密生した原生林が広がっていました。Sigloは、かつての豊かな森林を取り戻すため、在来種の植樹を進めています。
このプロジェクトでは、コアを中心に複数の在来樹種を組み合わせた森林を育成し、将来的な木材生産につなげる計画です。植樹から約30年後を目安に、森林が十分に成熟した段階で木材の生産を開始し、その後も継続的に活用していくことを目指しています。
Siglo Kapoaulaの森では、計画的な伐採と再植樹を通じて、現在Taylor Guitarsが使用しているコア材の2倍以上を将来的に生産できると見込まれています。余剰となる木材は、ギター製作者やアーティスト、高級木工製品の職人たちにも供給される予定です。
これまでにSiglo Tonewoodsは、敷地内の25エーカー(約10ヘクタール)に約10,000本のコアと、オヒアやアアリイなど1,500本以上の在来樹木・低木を植樹してきました。さらに、約23マイル(約37km)にわたる防風林を整備し、そこに追加で12,000本の木を植えています。
今後10年間の目標は、この土地に合計150,000本の木を植えることです。そのうち110,000本がコアとなる計画です。2015年以降に私たちが伐採した成熟したコアの木は、約700本です。
樹木の健康と美しさを高めるために
Sigloの活動には、ハワイ固有のコアの森について理解を深め、森林管理の改善につなげるための本格的な研究も含まれています。コアは、樹木内部の水分や養分の通り道が侵される萎凋病にかかりやすいという課題があります。そこでSiglo Tonewoodsは、ハワイ農業資源センター(HARC)と共同で、病気に強いコアを育成するための試験林を設立しました。100本以上の母樹から種子を採取し、それぞれの耐病性を調査しています。
また、楽器やその他の木工製品で高く評価される美しい杢目は遺伝的特性であることから、Haleakala RanchおよびMaui Native Nurseryと協力し、美しい杢目を持つことが確認されているコアの繁殖にも取り組んでいます。さらに、コアの苗木に最適な肥料や植樹方法についても研究を進めています。
こうした活動を通じて得られた知識や技術は、ハワイを訪れる人々や現地の専門家たちとも共有しています。Sigloは、研究成果を広く伝えることで、ハワイ固有の森林管理に関する科学的知識と実践技術の向上を目指しています。
製材所の建設
2021年、Siglo TonewoodsはBob Taylorがハワイ島に購入した土地で、新たな製材所の建設に着手しました。2025年までの稼働開始を目標としています。
この製材所では、コアをはじめとする楽器用木材の製材を行い、現地の製材能力を高めるとともに、輸送する木材の重量や容積を削減する計画です。さらに、地域の雇用創出や技術習得の機会を提供することも目指しています。