Crelicam製材所とエボニー・プロジェクト
Bob Taylorが、カメルーンでのエボニー調達、Crelicam製材所の買収と改修、そして画期的な植樹プロジェクトの資金調達について語ります。
エボニー製材所の変革:Crelicamの物語
エボニーは古くから、ギターやヴァイオリンなどの弦楽器に愛用されてきた木材です。密度が高いため、研磨によって滑らかで耐久性のある表面に仕上げることができ、指にも馴染みやすいことから、指板に最適な素材とされています。またその密度は、ギターのフレットを安定して固定するうえでも重要な役割を果たします。
Taylorでは、フィンガーボード以外にも、ブリッジ、ヘッドストックの化粧板、ブリッジピン、バインディングなど、さまざまなパーツや装飾に、エボニーを使用しています。
製材所の買収
2011年、TaylorはスペインのトーンウッドサプライヤーであるMadinterと共同で、カメルーンの首都ヤウンデにあるエボニー製材所Crelicamを買収することに合意。(当時のCrelicamのオーナーが引退を決めたことがきっかけでした。)
買収の主な目的のひとつは、エボニーのサプライチェーンを自社で直接管理すること。Taylorのほとんどのモデルに欠かせないエボニーについて、調達から製材までを一貫して管理することで、木材調達の合法性と倫理性を確保し、透明性をさらに高めることを目指しました。
予想外の発見
従来、楽器のフィンガーボードに使用されるエボニーは、均一な黒色であることが理想とされていました。しかし、カメルーンの伐採業者と交流し、森林での作業について理解を深める中で、実際には多くのエボニーの心材に、明るい色の美しいマーブル模様が入っていることを私たちは初めて知ることになります。
ところが、真っ黒なエボニーを好む長年の慣習によって、こうした色むらのある木材には、ほとんど市場価値がありませんでした。特に問題だったのは、木を伐採するまで心材の色や模様を確認できないことです。伐採した木に色むらが見つかると、そのまま森林に放置されていたのです。
この事実は、私たちの業界では誰も知らなかったことでした。以前のCrelicamのオーナーでさえ把握していませんでした。しかし、私たちにその実態が明らかになったのです。
Bob Taylorはこの事実を知ると、色むらのあるエボニーが無駄にならないよう、従来よりも高い価格で買い取ることを即座に決断しました。またそれをTaylorのギターに積極的に採用することで、顧客やほかの楽器メーカーにも、その利用価値を広めようと考えたのです。(色むらはあくまで外観上の違いであり、楽器としての性能や木材の機能には一切影響しません。)
製材所の改革
Crelicam製材所では、Taylor-Madinter共同経営体制のもと、もうひとつの差し迫った課題に取り組む必要がありました。それは、適切な設備と従業員への技術研修が不足していたことです。
設備のほとんどが著しく老朽化しており、操作には危険が伴い、故障も頻繁に発生していました。さらに、カメルーンでは交換用の工具や部品も容易には入手できませんでした。従業員に対する技術研修も不十分で、賃金も低い水準にとどまっていました。
こうした問題が重なり、良質な木材が大量に無駄になっていました。
Bob Taylorは、Crelicam製材所の全面的な改修を自ら指揮しました。カリフォルニアにあるTaylorの製造拠点で培った高度な工具・機械加工技術を活用し、中古の工具を購入して整備したうえで、カメルーンへ輸送。Taylorのチームメンバーとともに現地を訪れ、設備の設置や従業員への技術研修も実施しました。
さらに、全従業員の賃金を引き上げ、福利厚生を充実させるとともに、毎日無料の昼食を提供するための厨房も新設しました。
こうした改革の大きな目的のひとつは、現地での木材加工技術を向上させ、木材の付加価値を高めることでした。同時に、生産効率を改善することで、使用可能な木材の歩留まりを高め、廃棄量の削減を目指しました。
2013年には、これらの取り組みが認められ、米国務長官賞「Award for Corporate Excellence」を受賞。この賞は、海外で事業を展開する米国企業のうち、現地の地域社会に価値をもたらした企業を表彰するものです。
エボニーを活用した新製品の開発
廃棄物削減への取り組みの一環として、Taylorでは、楽器のパーツには使用できないエボニーの端材を活用し、さまざまな製品を開発しています。これにより、伐採した木1本あたりの経済的価値を高め、Crelicam製材所の事業運営も支えています。森林から年間に伐採・搬出できる木材の量には厳しい制限があるため、こうした取り組みは非常に重要なのです。
製品には、Taylorのエボニー製ギタースライドや壁掛けギターハンガーのほか、エボニー製ナイフハンドル用素材など。さらに、Bob Taylorは、Crelicamで働く2人の女性にちなんで名付けられた「Stella Falone」という、美しいエボニー製キッチン用品のブランドも立ち上げました。
植樹へ:エボニー・プロジェクトの物語
カメルーンでのエボニー調達に取り組む中で、Bob Taylorは将来に向けたエボニーの植樹にも関心を持つようになりました。しかし、苗木を育てるための育苗施設を設立し、エボニーの繁殖に関する文献調査を外部の専門家に依頼したところ、エボニー(学名:Diospyros crassiflora Hiern)の生態や繁殖方法について、驚くほど研究が進んでいないことが明らかになりました。
Congo Basin Institueとの共同研究
2016年、BobはUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の生物学者であり、カメルーンの首都ヤウンデに Congo Basin Institute (CBI) を設立したばかりのThomas Smith博士と出会いました。互いの実績や目標に共感した2人は、CBI初の研究プロジェクトにBobが資金を提供することで合意。こうしてエボニー・プロジェクトが誕生しました。
当初の目標は、エボニーの生態に関する基礎研究を進めるとともに、カメルーン南東部に位置するユネスコ世界遺産「Dja保護区」の周辺にある複数の小規模な地域社会で、15,000本のエボニーを植樹することでした。また、この地域では食料の安定確保が重要な課題となっているため、エボニーに加えて果樹の植樹も行っています。
その後、エボニー・プロジェクトは、西アフリカ産エボニーの生態に関する革新的な独立研究を実施し、査読付き学術論文として発表してきました。これらの研究成果は、地域社会を主体とし、ほかの地域にも展開可能なエボニーの植樹・アグロフォレストリー(森林農業)プログラムの構築にも役立っています。
現在では、Dja保護区周辺の複数の地域社会に15,000本のエボニーを植樹するという当初の目標を上回る成果を達成しています。
エボニー・プロジェクトの詳しい活動報告については、年次報告書や査読付き学術論文 をご覧ください。
プロジェクトの拡大
エボニー・プロジェクトは設立以来、主にBob Taylor個人による慈善活動としての資金で運用してきました。これに加え、Taylor Guitarsも物資や人的資源などを通じて多大な支援を行っています。また、世界銀行、Franklinia Foundation、カリフォルニア大学の各校からも資金援助を受けています。
2021年9月には、Global Environment Facility (GEF)が資金提供するカメルーンの大規模な森林保全活動の一環として、エボニー・プロジェクトに5年間で100万米ドルの助成金が交付されました。さらに2022年には、Bob TaylorとThomas Smith博士の資金によって、プロジェクトの長期的な継続を支えるための独自の基金も設立されました。
関連資料
エボニー・プロジェクトは、企業、地域社会、研究者が協力し、貴重な木材資源であるエボニーの保護、荒廃した森林の再生、そして農村地域の人々の生活向上を目指す共同プロジェクトです。
エボニー・プロジェクトの年次報告書および学術論文は、こちらからご覧いただけます